ねこ
犬学概論-性格編-



第2章 犬の資本主義経済下での労働力としての効用に関して


1. 犬の人的労働力への置換の事例

(実例)
報告者 東京都杉並区十王町○−○−○○ 藤倉ビル内
    山藤金属工業所 代表 山藤良太郎

 工場内での、比較的単純な軽作業を犬に代行させようという案は、古くから我が社にあった。そこで人手不足の47年の春、思い切って検査工程に犬を採用することにした。すなわち不良品と良品の見分けを犬にやらせたもので、その訓練と設備には多大の時間と労力と資金を要した。初期はうまくゆくかに見えたが、犬のきまぐれといおうか、仕事に対する真剣さはあるのだが、判別の能力が極端に悪くなり、採用した二匹の犬も正社員登用を目前に解雇せざるを得なくなった。これは大変に残念な事と思われる。ここに当社の優秀な工場長と人事課用の談話をあえて参考迄に公表する。今後犬を採用される方は何等かの参考資料となるのではないかと思う。

(人事課長 西川克治氏談)
 大変まじめそうな犬だし、性格的にもこのましく、会社の方針を良く理解している様なので面談の上採用した。二匹さんだけだったが、今後様子を見て増やす心づもりにしていた。入社後、研修期間中も大変まじめで、朝も遅れずにきちんとしていたのに、こんな事になろうとは思っていなかった。これは、犬の性格を今一つ理解出来なかったからであり、本当に悔やまれてならない。本会にもう少し早く入会していたなら、こんな事にはならなかっただろうに。

(工場長 安川厳氏談)
 入社後一定の訓練も終え、同僚と(人間)仲良くなり、新入社員歓迎会でも楽しそうに魚を食べてワンワン吠えていたのに…。初めの頃は良かったが、矢張り犬というものは、かなり出たらめなもので、知らない人が通るとワンワン吠えるし、ネズミが出ると仕事を離れて工場内を走り廻るし、全く工場の中は犬小屋のようになって来た。もう工場の中はメチャメチャですわ。これも人事課長の独断で決めた事で、許せない。私は死にたいぐらいだ。

『帝都目々新聞』昭和五十年十月三日號より



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