居酒屋にススメ




燗酒文化を崩壊させるな
最後は博多の酒房「やす」。博多祇園山笠の幹部の経営する店。九州を代表する料理研究家「山際千津枝先生」を案内し絶賛された店。まるで山笠の規律で動いているような店員の立ち振る舞いは、まさに美学。肴は全て「輪郭のくっきりした」見事な味。なかでも圧巻は酒の燗。吟醸ブームの悪弊か、やたら冷やした酒をグラスで飲ませる吟醸酒場もどきの店に間違って入ろうものなら、聞きたくもない能書きを聞かされた上、ひねた中吟クラスの酒を7勺600円位で飲まされたり。あきらかに「ぬる燗」がおいしい銘柄を見つけて、燗でも頼もうなら。「うちは燗は出来ません」の一点張り。決まって藍色の作務衣を着ていたりするから余計に腹が立つ。要は酒の燗が面倒なだけ。従って燗の技術も腕もない。せっかく花開いた吟醸文化が伝統の燗文化をつぶすのはあまりに惜しい。吟醸文化の草分け、「西の関」の萱島須磨自会長は「西の関の美吟はぬる燗でも美味しい」と何でも冷やして飲む風潮に一石を投じている。酒の味にこだわる人向けにはこれまでは「何でも冷やして飲む」吟醸酒、がもてはやされたが。これからはぬる燗で美味しい純米酒の時代が来ると思う。余談だが私の好きなぬる燗で飲む酒は「手造り西の関純米」「右近橘純米」「吟造り美少年」「コープ神戸虹の宴純米(木村酒造醸)」。

さて本題に戻るが、佐賀は「窓の梅」社長の甥にあたるK氏と同行。彼は酒の燗には一家言があり、やたらうるさい。酒の銘柄は忘れたが、確か繁桝ではなかったか。一合徳利のぬる燗を注文。見れば店員が注文取りの傍らに湯せんで都度の燗、これは興味津々。お、来た、「どうだ、温度は」と聞くと、すかさずK氏「見事、ピッタリ」。もう一本頼んでみよう、「同じ温度でもう一本」。賄いのところに目を移すと先ほどの店員が作業をしながら傍らで湯せん。温度を測っているわけではない。お、来た、「どうかね、温度は」、言うまでもなく「ピタリ」とK氏。いや、すごいなぁ。でもまぐれかもしれない、もう一本頼んでみよう、お、来た来た、三本目。二人ともほとんど同時に喜びと驚きの言葉を。「ピタリ、見事だ」燗番がいるわけではない店。ついでにやっている燗でこれほどの名人芸を見せてくれるとは。



居酒屋の「魔力」は「磁場」の世界
居酒屋の魅力は結局、主人の魅力と、その主人の磁力に吸い寄せられた客の醸し出す一種の「気」のようなものではないか。居酒屋は日本酒という発酵文化にふさわしい場であり、器である。酒場では「酒」や「肴」の話をするのはほどほどに「人生の機微」にまつわる話で杯を酌み交わすのが本来の醍醐味ではないか。「人生の機微」という酵母に醸し出される珠玉の時間を楽しむ贅沢。まず、風土があり、ここに人がいて、この場を盛り上げる酒がある。シンプルに考えれば、これが居酒屋の原点ではないかと思う。風土や人と無縁の「いい居酒屋」は存在しない。存在出来ない。居酒屋は一種の「日本的不思議」をはらんでいるから。

 居酒屋顔負け
「岡室酒店」のコップ酒メニュ−





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