串カツ一本三十円にあがって春 トマト喰うて血の味なまぬるい 十円ころげるさきに仙人寝る 幻燈機を見た夢で起きた朝の夢 飛んでるすずめもあぶって焼き鳥 おっと落とした天ぷらの土を払う まっすぐな道で無灯火 目がふたつらんらんと闇夜の猫目 カタカナの五文字書いてかけぶとん 山笑うまえに酒飲んで笑う あのむこうの岬からきた船に岬のくつあと 日本酒は液体美人べたべた たちどまって見る雑草はほとけさん かじったパンの歯型そのままに干からびた おいそこの犬しっぽがかゆいのか 太った金魚がのんきに水槽の水 ペンペン草通天閣が雨で洗われた なまたまごの赤い血ひとすじの祖先 ポロッと抜けた歯の門出 桜のつぼみとだんだん太るだけの猫 無人駅で出会う夢の客と出逢う無人駅 障子の破れから見る空に雪山 焼酎は透明な汗の味ホルモン 読み返すほど厚み増す新聞を捨てる この空のむこうに酒になる前の稲が実る 雨にぬれた犬よいっしょに飲もうか 寒い野宿弁当を喰うあいだだけの暖 環状線を三周まわっても外は朝 線路のさきに海がある山もある 街灯がついたら星がみな消えた よく肥えた犬だスープには惜しいくらい うす揚げをパリッと焼いて酒はひや どぶねずみは場末の砲弾 ドブ川に春がきてまたドブ川 里のすすきほんのり湯気みたい 豚足を喰ったあとの油手に雪 大根をおろしただけのだいこんおろし 七輪の炭いこるまでの時間 玉子の黄身がもっこりおっぱい
「 うしろすがたのしぐれてゆくか 種田山頭火 」 |